第1回 東欧グルーヴの魅力とは ~暗躍するジャズメン~

第1回 東欧グルーヴの魅力とは ~暗躍するジャズメン~

さて東欧グルーヴの魅力は何かと聞かれたら、一番はジャズのエッセンス、それもアツすぎるビッグ・バンドのサウンドだと思っています。

早速ですが、こちらの曲を聴いてみてください。チェコ歌謡のスター、Eva Pilarováの72年のシングルなのですが…。

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Eva Pilarová「Léto, Léto」
チェコ 72年

冒頭のグルーヴィーなドラムからもう最高ですが、注目すべきは徐々に熱を帯びていき、高揚感溢れまくりのブラスの存在。グルーヴ歌謡と呼ばれる曲は、日本でも数ありますが、ここまでパッションに満ちた演奏は中々無いでしょう。

アツすぎるジャズの伝道師、大衆オーケストラ

このように、歌謡曲はもちろん、ロックから映画のサントラまであらゆる場面でアツすぎるジャズの魂をブチ込んだのが、各国の一流ビッグ・バンドの存在。


先程の曲は、東欧のグルーヴ・モンスター、Josef Vobrubaが指揮するTOČR(Taneční orchestr Československého rozhlasu)、すなわち「チェコ・スロヴァキアのラジオ局によるダンス音楽のオーケストラ」がバックで演奏していたわけです。
TOČRはその代表的な例ですが、東欧ではラジオ局、テレビ局、国営レーベルなどがお抱えのビッグ・バンドを持ち、その一流ジャズ・ミュージシャンの集団が、歌謡曲からロック、サントラまであらゆる音楽を陰で支えてきたんですね。

例えば、ポーランドでは地方ごとのラジオ局、テレビ局がそれぞれビッグ・バンドを抱えており、中でも有名なのがJerzy Milianが指揮するOrkiestra Rozrywkowa PRiTV W Katowicach(カトヴィチェのラジオ&テレビ局のエンターテインメント・オーケストラ)。

Jerzy Milian & Orkiestra Rozrywkowa PRiTV W Katowicach
「Gacek」
ポーランド 75年

Jerzy Milianはヴィブラフォン奏者として、作曲家・編曲家としても素晴らしいポーリッシュ・ジャズの最重要人物。グルーヴはもちろん、良質なメロディと美しいコーラスも備えた本アルバムは、彼の代表作であるだけでなく、東欧ジャズ屈指の名盤と言えるでしょう。

ブルガリアではЭОБРТ(Естраден Оркестър На Комитета За Телевизия И Радио)すなわち、「ブルガリアのラジオ&テレビ局の大衆オーケストラ」が1960年に誕生。
さらに64年にはЭОБРТの指揮者はВили Казасянに移り、ЭОБРТの創始者Емил ГеоргиевはСофияを結成。
首都の名を冠したこのビッグ・バンドと、ЭОБРТが歌手のバックなど、あらゆる大衆音楽の演奏を担うことになります。

この二つのバンドの演奏が一度に聞ける名盤が、ブルガリア歌謡の大スターДоника Венковаの1stアルバム。

Доника Венкова
「На Сто Години Веднъж」
ブルガリア 73年

ブルガリアの伝統に則った折り目正しい歌謡を支えながら、躍動するビッグ・バンドのサウンドは正にグルーヴ歌謡の模範解答。数あるСофияワークスの中でも、最高峰の一曲と言えるでしょう。

ЭОБРТとСофияのもう一つオススメしたい共演盤が1974年のコンピレーション、「Поп Джаз」。

ちなみにコンピと言っても、東欧では既存曲の寄せ集めではなく、コンピのみの収録曲を集めたものばかりなのでスルーは禁物(こちらも収録曲のほとんどが本作のみでしか聴けないもの)です。

さらにはタイトル「Поп Джаз(=意味 ポップ・ジャズ)」とは全くのウソで、凶悪なエレキギターに変拍子の応酬が加わった、悪魔的ジャズ・ロックが聴けるアルバムとなっています。YouTubeにあがっていないのが残念ですが、中でもЭОБРТによる「Ритм в 9/8」は、変拍子とグルーヴの狭間で時折美しいピアノが顔を出す名曲です。

  V.A.
「Поп Джаз」
ブルガリア 74年

東ドイツでもRundfunk-Tanzorchester Berlinつまり「ベルリン・ラジオ局のダンス・オーケストラ」が存在、これを指揮していたのがGünter Gollaschで、彼は国営レーベルAMIGAでもセッション・ミュージシャンをまとめていた偉大な指揮者でした。AMIGAでは、AMIGA Studio Orchesterの名義で音源を残しています。

その中でも紹介したいのが、東ドイツ版オーディオ・チェック・レコード「Stereo Par Excellence」。日本のオーディオ・チェック・レコードと言えば一流のミュージシャンが参加していて一部のマニアには溜まらない存在でありますが、東ドイツも然り。Günter Gollaschの指揮する熱量たっぷりのビッグ・バンド・サウンドも最高ですが、テープ逆再生も使用した技巧的なアレンジも素晴らしいです。

  AMIGA Studio Orchester
「Es Steht Ein Haus In New Orleans」
 東ドイツ 69年

上記のHouse of rising sunの他、アヴァンギャルドに改変されたロシア民謡なども収録されています。東欧の中でも比較的発展していた東ドイツですが、オーディオ・チェック・レコードまで存在していたというのは驚きですね。

ジャズからロックへ。ハンガリーの大衆音楽を支えたEgyüttes文化

一方で、ハンガリーは少し違った道筋を辿ります。ハンガリーではバンドのことを、Együttesと呼びますが、60年代からクラシックや民謡以外の大衆音楽を演奏する楽団として、複数のEgyüttesが誕生します。その代表格がBergendy。
まずは彼らのベスト・トラックを聴いていただきましょう。

(1:30~が本番)

Bergendy
「Kikapcsolom Az Idegrendszerem」
ハンガリー 75年

このアルバムはソ連でも公開された(ソ連盤もあるのでおそらく)1976年の映画のサントラで、映画はハンガリー版イージー・ライダーといえるような内容。
ハンガリーの有名ロック・バンド(Együttes)が一堂に会して作られた隠れた名盤なのですが、もちろんBergendyも参加。アツすぎるブラス・ロックを聴かせてくれます。
実はこの時、すでに彼らは活動15年目。元々はジャズを演奏するグループとしてキャリアをスタートさせました。

その頃の音源が残っているのが、ハンガリー初期のジャズ・シーンを記録した、「Modern Jazz Anthology」シリーズ。1964年リリースのシリーズ4枚目には、彼らの正統派ハード・バップが収録されています。

そんな彼らがロックの要素を取り入れ始めるのが1969年ごろ。エレキギターを導入したサウンドが楽しめます。クールなダウナー・ファンクは必聴モノ!

     

Bergendy
「Randevúm lesz délután」
ハンガリー 69年

71年の「Modern Jazz Anthology」10作目でも、ロックの洗礼を受けて、進化したジャズ・ロック・サウンドを披露。この曲は現在もハンガリーでカヴァーされている、名曲中の名曲です。

Bergendy
「Kék Fény」
ハンガリー71年

このようにハンガリーでは元々ジャズを演奏していたEgyüttesが時代とともにロックなど西側の音楽を取り入れて音楽性を変化、さらにそのEgyüttesが歌謡曲、映画音楽など様々なシーンで演奏していくことで、ジャズのグルーヴがあらゆる大衆音楽に広まっていったわけです。

せっかくなので一例を紹介しましょう。先程のBergendyがロック化していく最中の1970年の演奏で、大スター歌手&俳優Poór Péterの曲です。

Poór Péter
「Naptár」
ハンガリー 70年

スイングする演奏と艶のあるバリトン・ヴォーカルの組み合わせが気持ちイイ、良曲です。

そんなこんなで東欧の大衆音楽シーンにジャズの要素が広がっていった背景をざっくりと説明させていただきました。歌謡曲、映画音楽などあらゆるジャンルを一流のジャズメンが支えていたことで生まれたグルーヴ。暗躍するジャズメンの功績によって東欧グルーヴは誕生したと言えるでしょう。

最後にヤバすぎるこちらを紹介して連載第一回をシメようと思います。

チェコ版タイタニックのミュージカルのサントラ盤ですが、演奏は冒頭で紹介したTOČRの指揮者だったグルーヴ・モンスターJosef Vobruba。
一癖あるグルーヴをご堪能あれ!

The Josef Vobruba Orchestra
「Jednoduchý Obchod」
チェコ 77年

                         

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次回も引き続き東欧のジャズを掘り下げていきますので、お楽しみに!


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