東欧グルーヴ探訪とは
YouTubeやサブスクリプションが普及しあらゆる国の音楽に手軽にアクセスできるようになった今、まさに「音楽に国境はない」という言葉通りの世界で、あらゆる時代、場所の音楽が日々発掘されていることでしょう。
しかし、そんな状況と対照的なのが共産主義時代、つまり89年に革命が起きる前の東欧諸国かと思います。西側で生まれたジャズやロックは、資本主義的な退廃的音楽、またはアフリカがルーツの聴くに足りない音楽と見做され、演奏はもちろん聴くことすら制限されていた時代がありました。政府から推奨されていたのはクラシックや民族音楽で、唯一レコードを生産する存在である国営レーベルが、これらを中心にリリースしている状況でした。
しかし、禁止されるほど聴きたくなるのが、人間の性。有名な肋骨レコードのように、違法レコードを売るものが現れたかと思えば、アメリカもプロパガンダとして短波ラジオで西側の大衆音楽を流したり。
そんなこんなで分厚いコンクリートの国境をすり抜けたジャズやロックは、壁の内側で独自の進化を遂げ、唯一無二のグルーヴを持った音楽へと変貌していきました。
この連載では89年の東欧革命で体制転換が起きた東ドイツ、ハンガリー、ポーランド、チェコ・スロヴァキア、ルーマニア、ブルガリアが壁の向こう側で密かに製造していた、知られざる「東欧グルーヴ」の世界を紹介してまいりたいと思います。
PROFILE
ヨハネス市来
ベルリンの壁崩壊からちょうど三年後生まれ。レコード会社勤務。
「東欧グルーヴ」をテーマにレコードを蒐集し、東欧料理を食べながら東欧のレコードを掘り下げるイベント「東欧のレコードを聴く」を主宰。DJとしても活動中。