第7回:80‘sサウンドの魅力② ~フュージョン、ハウス、HIP HOPまで~

第7回:80‘sサウンドの魅力② ~フュージョン、ハウス、HIP HOPまで~

前回の連載では、ディスコ・ブームの訪れによって東欧音楽が変容していく過程をご紹介しました。今回はさらに多様化する80年代東欧の音楽シーンをご紹介。まずはこちらを聴いていただきましょう。

Hipodrom
「Pražský Haus」
チェコ 89年

革命間近にリリースされたこの曲は、チェコ初のハウス・ミュージック。サンプリングを駆使し、打ち込まれたリズムと力強いシンセサイザーで躍らせる強力なダンス・ミュージックに仕上がっています。セールス面でも成功し、チャート第2位に輝きました。

彼らはその後、HIP HOPのトラック制作を手掛け、革命後のチェコでHIP HOPシーンが誕生した際のパイオニアとして活躍していきます。

このように80年代は東欧では様々な音楽ジャンルが誕生し、その進化と多様化は止まることなく革命を駆け抜けていったのです。

超絶テクニック!フュージョン化するジャズ

東欧でジャズが盛んだったことはこの連載で何度も紹介していますが、70年代にジャズとロックの実験的融合が図られた後は、西側からフュージョンが流入し、これに倣う形でジャズ・シーンはフュージョンへと傾いていきました。

ポーランド・ジャズ最重要人物、Zbigniew Namysłowskiも80年にフュージョン期の名作「Follow Your Kite」をリリース。

Zbigniew Namysłowski Air Condition
「Load Off Mind」
ポーランド 80年

Polish Jazzシリーズでのフュージョンおすすめ作品はこちら。最初からフュージョンを演奏するバンドとしてデビューしたExtra BallのPolish Jazz、Vol. 59にあたるアルバム。

中でも、子気味いいギターのカッティングを聴くことができる、爽やかな一曲は特に推せますね。

Extra Ball
「Krakowski festiwal jazzowy」
ポーランド 79年

ブラジリアン・フュージョンの流れを汲むバンドも。76年結成のCrashの2ndアルバムから一曲ご紹介しましょう。女性ヴォーカル入りの尖った高速ボッサです。

 Crash
「W najprostszych gestach」
ポーランド79年

さて、ポーランドと並んでフュージョンが発展したのがハンガリー。まずご紹介したいのは、ハンガリー・ジャズ協会三代目会長Attila LászlóによるバンドKaszakő。カッティング・ギターにキレのあるブラス、コテコテのシンセサイザーが加わったサウンドは良質80’sファンク!

Kaszakő
「Jégeső」
ハンガリー 83年

ハンガリーからもう一つ紹介するのは、他の録音が見当たらないため詳細が不明なバンドKis Rákfogó唯一のアルバムから。詳細は不明ながら、太いベースとパーカッションで幕を開けるジャズ・ファンクから超高速ボッサへ変貌する一曲がおすすめです。

Kis Rákfogó
「Kéményseprő」
ハンガリー 82年

そして東欧フュージョンで個人的に最も聴いていただきたいのが、ブルガリアの一枚。大衆オーケストラЕОБРТのトランぺッターを務めてきた、Йордан Капитановによるリーダー作です。同じくЕОБРТのДимитър ШановによるベースとХристо Йоцовのドラムの凄まじい技術とグルーヴに度肝を抜かれること間違いなし!連載冒頭から紹介してきた東欧の大衆オーケストラもここまで進化したということですね。素晴らしい…

Йордан Капитанов Джаз Формация
「Етюд」
ブルガリア 88年

卓越した技術で、素晴らしい作品を数々輩出した東欧フュージョン・シーン。チェコ出身のJan Hammer(プラハの春で亡命)がMahavishnu Orchestraで活躍していったことを考えれば、当然の結果と言えるかもしれません。

さらに多様化するロック

前回、ディスコ・ブームを受けて音楽性をディスコに寄せていったロック・バンドを紹介しましたが、80年代のロック・シーンは他にも多くの音楽を取り入れつつ多様化していくことになります。

まずはレゲエ。東独のReggae Playはシンセ入りのユーモラスなレゲエを演奏するバンドです。レゲエを取り入れたバンドは他にも多く存在しますが、ここまでレゲエを前面に押し出した彼らは、パイオニア的存在と言えるでしょう。そんな彼らがディスコ・コンピに参加した際のダンサブルな一曲をご紹介しましょう。

Reggae Play
「Mein Freund Will Zur Disko, Diskothek」
東ドイツ 84年

続いて紹介するのは、同じラテン・ルーツでも少々変わり種のクンビア。どのような経緯でこの曲が生まれたかは不明ですが、アコーディオンのサウンドとリズムはクンビアそのもの。そこにエレキ・ギターを加えてロック化した個性的な楽曲です。

Formatia Cristal
「Caii albi」
ルーマニア 84年

ニューウェーヴを主軸に置く彼らは、幅広い音楽を吸収し、唯一のアルバムである本作でも多彩な楽曲を聴くことができます。せっかくなので、東欧グルーヴ的に推せる曲をもう一つご紹介しましょう。

Formatia Cristal
「O Rază」
ルーマニア 84年

ポーランドでは、ロック・バンドでもフュージョン的アプローチをするバンドが現れていきます。その代表的存在が、80年代で最も勢いのあったバンド、Kombi。中心人物である電子技術者Sławomir Łosowskiは、ソ連製電子オルガンを改造し、独自のサウンドを作してロックのエレクトロニクス化に成功。革新的なサウンドと卓越した技術でロック・シーンを牽引していきました。

Kombi
「Bez ograniczeń」
ポーランド 81年

凄まじいギター・ソロ、シンセ・ソロは必聴です。

卓越した演奏力を持ち、超絶的な演奏をしてきたSBBもこの分野のパイオニアと言えるでしょう(ドラムのJerzy Piotrowskiは後にKombiにも参加)。元々ロック・スターNiemenのバック・バンドだった彼らは、ジャズ・ロック~フュージョンを通過したのち、傑作「Welcome」でシンフォニック・ロックのスタイルを確立。

SBB
「Walking Around The Stormy Bay」
ポーランド 79年

超絶技巧の演奏と、シンセによるスペーシーなサウンドで綴るシンフォニックなロックは、東欧各地で多大な影響を残し、ハンガリーのSolaris、東ドイツのStern-Combo Meißenと共に、現在まで続くシーンを作り上げました。

ちなみにSBBの独立後、NiemenはMahavishnu Orchestraとのアルバムを制作し、CBSからリリースしています。

そして誕生したHIP HOPからVaporwave(?)まで

80年代に完成したHIP HOP文化も90年代以降、東欧で大きく花開いていくことになりますが、89年の革命前にもその兆しが見え始めていました。

東欧で最も早くHIP HOPに目覚め、ラップを取り入れたのが、ハンガリーの伝説的ロック・バンドHungariaの主要メンバーだったFenyő Miklós。彼はMikiの名義でソロを開始後、当初はロックンロールを演奏していたにも関わらず、2ndアルバムで急遽変貌。ラップで韻を踏むヴォーカル・スタイルに切り替え、東欧初のHIP HOPを披露します。

Miki
「Jól Nézünk Miki」
ハンガリー 84年

以降、東欧でもHIP HOPに挑戦した曲が散見されるようになっていきます。

先程紹介した、東ドイツのディスコ・コンピにも実はHIP HOPが収録。おそらく東独最初のHIP HOPでしょう。面白いのは、スクラッチ音を楽器で再現していること。情報が少なかった東欧ならではの工夫と言えるでしょう。

Juckreiz
「Zeck,zoff,trouble en masse」
東ドイツ 84年

ルーマニアでの初のHIP HOPは前回も紹介した歌謡曲シリーズのコンピに収録されたもの。機械的ビートによるグルーヴとメロウさがクセになる歌謡曲ですが、1:47~のラップ・パートに注目です。

 Mircea Dragan & Romanticii
「Dansul dragostei」
ルーマニア 85年

チェコでは革命前夜の89年ごろからHIP HOPシーンが誕生。冒頭で紹介したHipodromは別名義J. P. Orchestraとしてラッパーにトラック提供を開始。90年にリリースされたその曲は、チェコ初のHIP HOPとなりました。ラップを披露しているMichael ViktoříkはHIP HOPグループ、J.A.R.を結成し、シーンのパイオニアになっていきます。

Michael Viktořík
「Všechno Je Jinak」
チェコ 90年

同年にはチェコ初のHIP HOPコンピ「Rap-Hip-Hop-House Music」がリリース。シーンの誕生を決定づけました。J.A.R.やHipodromが曲を提供し、チェコの新しい音楽を紹介しています。今回は、メロウなトラックに東欧諸国の国名を羅列したラップが乗る一曲をお届け。

J.A.R.
「Free for Europe」
チェコ 90年

革命後のHIP HOPからもう一曲紹介しましょう。HipodromのJindřich Parmaによって結成されたRave Modelの曲で、その名も「Karel Gott Nemá Funky Rád(意味:カレル・ゴットはファンキーじゃない)」。この連載でも何度も登場した、チェコを代表する大歌手Karel Gottを盛大にディスっているわけです。

Rave Model
「Karel Gott Nemá Funky Rád」
チェコ 93年

Jindřich Parmaは元トランぺッターで、大衆オーケストラPražský Big Bandや、ジャズ・ロック・バンドMahagonにも参加してきた人物。歌謡界とも縁が深く、先ほどディスっていたKarel Gottにも楽曲を提供しています。チェコの大衆音楽を陰で引っ張ってきた存在と言えるでしょう。

さて一番最後に紹介するのは、先ほどのHIP HOPコンピ「Rap-Hip-Hop-House Music」にも参加した、Yandim Bandのアルバムから。

Yandim Band
「Tančírna」
チェコ 90年

いかがでしょう。デジタルなアートワーク、ピンクと水色の色使いから、2010年代に誕生したVaporwaveを連想した方も多いでしょう。チープなシンセ、打ち込みのドラムもVaporwaveに通じるサウンドに仕上がっています。60年代末より独自に音楽を発展させていった東欧が最後に行きついたものは、時代を先取りしすぎた先進的サウンドだったと言えるかもしれません。

ここまで東欧グルーヴ史をざっと辿ってきましたが、いかがだったでしょうか。まだまだディープな東欧グルーヴの世界。次回以降も紹介していきますのでお楽しみに!

お知らせ

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